動物に関するオーストラリアの法律(その2)
前回はオーストラリアへの動植物持込の規制策についてお話ししましたが、今回はオーストラリアに生息している動物に関する法律を見ていきます。オーストラリアの在来動物は、とりわけ環境保護・生物多様性保全法(1999年)という法律によって、絶滅危惧種はもちろんのこと、例えばビルビーやワラビー、亀、多くの鳥類、サメなどの海洋生物までも保護されています。こうした動物を殺すことは犯罪で、最長で禁固2年と最高54万豪ドルの罰金が科せられます。しかし、もし自然の中で(例えばブッシュウォーキング中に)、絶滅寸前かつ人間に危害を加えそうな蛇に出くわしてしまった場合、あなたならどうしますか?絶滅危惧種の保全に関心が向けられているオーストラリアでその蛇を殺してしまったなら、罪に問われる可能性が高い、ということです。
オーストラリアでは、飼いならされた動物も法律によって守られています。動物虐待防止を目的としたこの法律の適用については政治的論争もあり、現在見直しが図られているところです。オーストラリア各州には、動物の安全を確保するための法律がありますが、それは特にペットである犬や猫を守るために適用されます。今、論争中なのは、家畜にもこの法律を適用するかどうかです。例えば馬は、その法律によって、故意の虐待行為から適切に守られています。しかし、養豚や産卵鶏については明確ではありません。つまりその法律は、犬や猫などのコンパニオン・アニマルをしっかり守る一方で、営利目的で飼育されている動物への関心に欠けているのがわかります。ですから、犬や猫を豚や鶏と同様の飼育状況におけば、違法行為(動物虐待)として非難をあびるとも言えるでしょう。こうした法のねじれについて、いくつか例を挙げてみます。脊椎動物である魚は動物学的に動物の一種ですが、動物虐待防止のためのこの法律で言うところの“動物”には含まれていないかもしれません。なぜなら、魚は商業目的で養殖され、虐待ともいえる方法(窒息や押しつぶし)で殺されることもあるからです。また、NSW州では、家畜にはその法律は適用されません。飼われているすべての動物にはえさや水を与えなければなりませんが、運動させなければいけないのは、ペットとして飼われている動物だけです。さらに、動物に毒を盛って違法なのは、飼いならされた動物(ペットのように)だけが対象です。
オーストラリアの産卵鶏に関する法律も、今ホットなトピックの一つです。オーストラリアでは毎年、卵生産のために何百万という雌鶏が繁殖されています。法律上、こうした雌鶏は“資産”(Live-stock=生きている-資源)です。雌鶏を含む家禽を飼育したり食肉処理したりときに適用される連邦法はないので、それぞれの州・準州が雌鶏の福祉について定めた法律を有しています。しかし、そうした州法によって、商業目的で繁殖されている雌鶏を有意義に保護できているかといえば、実際のところまったくそうではないので、議論が起こっています。例えば、産卵鶏の一生は、卵生産農場に輸送される前の孵化場で雄雌に分けられ、ワクチン接種を受けるところから始まります。この時点で、産卵しない雄鶏は産業廃棄物と認識され、一般的にはガスや高速粉砕によって殺されてしまいます。これは、動物愛護・動物福祉と言えるのでしょうか?一般には知られていませんが、毎年1,200万ものヒヨコが、こうした運命の下で産まれているのです。