パスポート

Tracey Peers
December 5, 2016
日本は、国際テロなどの犯罪を防止するため、パスポートのセキュリティ(偽造対策)を強化する方針だそうです。2023年までに、オーストラリアやヨーロッパ同様、顔写真や氏名が印刷されたページをプラスチック板に変更するとのこと。また、各都道府県で行っている発給業務を集中作成方式に変更し、セキュリティの向上を図ることも決定しているようです。
日本もオーストラリアも、現在のパスポートはISO B7サイズです。日本のパスポートは約28ページですが、2,500円を払って査証欄を40ページ追加することも可能です(増補)。ただしこれは1度に限られるため、さらにページを増やしたい場合は、新しいパスポートを申請することになります。
日本のパスポートには、氏名が漢字で記載されていません。小学校で習うのは訓令式ローマ字であるにもかかわらず、パスポートの姓名欄で使用されるのは、すべて大文字のヘボン式ローマ字と決まっています。言語学的な正確性では劣るようですが、オーストラリアなど英語圏の人々にとってよりわかりやすいのがヘボン式ローマ字です。
しかし2000年4月からは、ヘボン式の変形使用も一部認められています。“野球のユニフォーム”をイメージするとわかりやすいでしょうか。例えばイトウ(ITO)さんは、長音を表すH付きの、ITOHも使用できるようになりました。
さらに2008年2月からは、日本語の音訓、慣用にとらわれない氏名表記も認められています。ただし、明確な理由があること(他国で公に、その綴りの名前で知られているなど)と、その氏名表記を悪用しないという宣誓が条件です。
日本のパスポートのサインは、どの言語を使用しても、抽象的なものであってもかまいません。自署なので印鑑は認められませんが、表紙の内側には、外務大臣印が印刷されていますね。
1986年にアメリカで始まったビザ免除制度の一環により、オーストラリア入国時に、印刷された査証(ビザ)は不要です。この制度に参加している国の間では、短期間の滞在(通常、90日以下)であればビザなしで入国できます。日本は1988年に、世界で2番目にこの制度に参加した国です。なおオーストラリアの場合は(アメリカも)、渡航前に手数料を支払って、電子渡航許可を取得しなければなりません。
パスポートを申請する際、顔写真は必要アイテムです。申請が差し戻される理由として最も多いのがこの写真の問題で、およそ9割の申請写真が規格外だそうです。写真は、そのサイズや顔の縦の長さに特定の規格があり、淡い色の無地背景、良質な画質でなければいけません。また、平常の顔貌と著しく異なってはいけないことから、目が閉じている、口が開いているなどはNGです。こうした規格は、出入国管理と偽造防止を目的としています。出入国システムが、写真と本人とを見比べやすいように、笑った顔やしかめっ面も、ガイドライン上NGとされています。ところで今、パスポートに笑った写真を使用できないことがフランスで裁判となり、話題を呼んでいます。落ち込んだ国民たちをニコッとさせたいという思いから、ある陽気なフランスの公務員が、パスポート写真の笑顔禁止規格について、ほぼ勝ち目はないと思われる裁判に持ち込むことに決めました。内務省が定めた規則“口を閉じた無表情であること”に違反しているという理由で、彼が申請したパスポート写真が2年前に拒否されたときから、この公務員の冒険の旅が始まりました。彼は法的主張の中で、近頃のフランス国民は一見生きる喜びに満ち、充実した生活を送っているように見えるものの、相次ぐテロ事件に怯えるなど、実は悲観的になりつつある、と言っています。そして、当局の仕事はフランス国民の笑顔を責めて、意気消沈させることではない。笑顔写真禁止の規制緩和は、国民のムードを上げるのはもちろんのこと、世界におけるフランスのイメージアップにもなる、とも主張しています。さらには、モナリザの謎めいた微笑みを例に挙げて、人は淡々とした表情で口を閉じながらも、幸福を伝えることができる、と指摘しています。
こうした公務員の主張に対して、セキュリティのエキスパートは、口を開いているなど平常と異なる願貌では、空港の顔認識スキャナーが本人と認識しない可能性がある、と言っています。
最後にトリビアをひとつ。日本のパスポート第一号は、1867年パリ万博参加のために海を渡った曲芸団の一員、隅田川浪五郎に発給されました
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