動物に関するオーストラリアの法律(その1)

Tracey Peers
September 6, 2016

ハリウッドセレブのジョニー・デップと当時の妻アンバー・ハードが、愛犬のヨークシャーテリア2匹をロサンゼルスからゴールドコーストに違法(オーストラリアの検疫を通さず)に持ち込んだニュースは、メディアを賑わせました。これほど大騒ぎになったのはなぜでしょう?1つは、ハリウッド俳優のデップさんが映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」続編撮影のため、ゴールドコーストを訪れていたから。そして2つめは、島国であるオーストラリアは幸いにも、世界各地で生じている多くの重大疾病・健康問題から切り離されているという背景があるからです。地理上、孤立しているオーストラリアでは、世界のどこにも存在しない固有の動植物をたくさん見ることができます。ですから、病気の侵入にはかなり敏感なのです。

ハードさんの言葉を借りると “オーストラリアは、世界各地に広まっている有害生物や病気とは無縁です。だからこそ、オーストラリアはこれほど厳しいバイオセキュリティ法を持たなければならないのです。” 海外からオーストラリアに犬を持ち込む場合、およそ20もの手続き(輸入許可取得、狂犬病や体内・外寄生虫など様々な病気検査を含む)を踏む検疫をパスしなければなりませんが、これをすべて終わらせるには数週間を要します。海外からの動物持ち込みに関する承認手続きを監督しているのは、オーストラリアの農水資源省です。

地史の草創期、オーストラリアは地球上の大陸から切り離されました。これにより、多くの動物たちが数を増やすことに成功しました(世界の他のエリアでは、そうはいかなかった)。オーストラリア固有の哺乳動物のほとんどが、カンガルーやウォンバット、そして愛らしいコアラなどの有袋類です。有袋類は産まれてから独り立ちするまでの間、お母さんの腹袋の中で育てられます。有袋類の中には、卵を産む単孔類の動物もいますが、それは世界にたった2種しか存在せず、いずれもオーストラリアで発見されたカモノハシとハリモグラです。

オーストラリアでは24,000種もの在来植物が育っています。日本は約6,000種、イギリスは約1,700種と言いますから、オーストラリアは桁違いなのがわかります。このように、オーストラリアには特有かつとてもデリケートな動植物が生息しているので、海外から動物や植物、あるいは植物原料が入り込むことに対してかなり敏感で、厳重な検疫を通すのも当然です。

オーストラリアへの動植物の持ち込みに関する法律違反を犯した場合、最長禁固10年の刑が科せられます。それは厳しすぎると思われるかもしれませんが、多くのオーストラリア固有の動植物を破滅させてしまうかもしれない、海外からの病気の侵入を絶対に防ぎたい、というオーストラリアの事情を考えれば納得でしょう。自家用機でオーストラリアに到着した際に虚偽申告したことをハードさんが認めたため、彼女は動物の密輸罪には問われず、訴訟も終わりました。結局、ハードさんは罰金AUD $1,000を支払い公開謝罪も行いましたが、その謝罪ビデオはインターネット上で大きな話題となりました。

このような事件は、個人やそのペットの権利よりも、固有動植物の保護が重要視されていることの証明のように思います。たとえその個人がハリウッドセレブであったとしても、法の上に立つことはできません。

ところで、バイオセキュリティ法2015が2016年6月16日に施行されたことで、オーストラリアのバイオセキュリティ制度に重要な変更が生じました。これにより、オーストラリアの輸入業者も影響を受けています。この法律は、オーストラリアの海岸線から12海里以内の“オーストラリアン・テリトリー”でも適用され、オーストラリア領のクリスマス島、ココス(キーリング)諸島、ノーフォーク島もそれに含まれます。
ニュージーランドからオーストラリアへの犬の持ち込みは、出国5日前から出国日までの間に認定獣医発行の健康証明さえ取得できれば可能です。オーストラリアへのドッグフードの持ち込みに関しても厳しいルールがあり、例えば、産地国の政府公認獣医による、証明書への署名が必要です。なお、剥製動物や動物の遺灰の持ち込みは可能です。

では、麺製品などの食べ物の、日本からの持ち込みに規制はあるのでしょうか?常温保存可能な食品かつ個人で食することを目的としていれば、こうした食品もオーストラリアに持ち込むことができます。

さて次号では、オーストラリアの動物保護に関する法律、例えばサメを殺すのは違法かどうか、についてお話します。

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